会報第12号(P11)

「デジタル・コミュニケーションの日々」
第31期生(新13期)小林 武廣
【ヘビー・ネットワーカー】
 自分で言うのも如何かと思うが、私はちょっとばかりヘビー・ネットワーカーである。
 このIT時代になっては、パソコンを扱うのは老若男女当たり前の時代かもしれないが、しかし、私のは自分でも自信を持って言えるくらい年季が入っている。
 大抵の皆さんは仕事か学校でパソコンと馴染みになったかと思うが、私は仕事とは一切関係がないところで「この道」に分け入った。
 今でこそ、公務員を退官後、税理士事務所を開いているので、無論、コンピュータ会計を扱っているのであるが、それまでは、私は仕事ではなく趣味として長い蓄積をもっている。特に高齢者を中心とするデジタル・コミュニケーションの分野で活躍中(?)である。
 その控えめな証拠を上げておくと、雑誌「文芸春秋」の平成8年8月号には、グラビア2ページで私のネットワーカー振りが報じられている。また、昨年、平成13年には、NHK教育テレビの「趣味悠々」という番組で使用されたテキストに私が写真入りで紹介されているし、同じ年の出版であるエーアイ出版の「未読・必読ホームページ」という本ではその第2章「政治」の部分を執筆している。
 ただ私は、前にも述べたとおり、仕事としてコンピュータに関わったことがない。一昨年までの約40年の公務員生活を通じても縁がなかったし、事務所のコンピュータも事務員任せである。数年前からホームページを5つも運営しているのに、事務所のホームページは漸く昨年の秋に開設した、という程度である。つまり未だに仕事ではIT技術を生かしておらず、趣味の世界だけ用いていることになる。

【デジタル・コミュニケーションって?】
 ではどうしてこういうヘビー・ネットワーカーになったかというと、事情は今から12年程前に遡ることになる。その頃の私は(当時としてはまだまだ先のことではあったが)公務員を退職した後のことを考えて悶々としていた。何しろ当時は仕事オンリーの人間であって、趣味など一つもなかった。ただ仕事についての意欲と抱負に燃えるだけであったから「一体、退職したら自分はどうなるか?」と思うと何かいたたまれない気持ちであった。  そうしたときに、書店で高齢者を対象とするある雑誌に目を留めることがあり、それが契機となって高齢者を中心とするデジタル・コミュニケーションの道に足を踏み入れることになった。
 「しかし」である。こう書いても「デジタル・コミュニケーションって何だ?」という疑問をもたれる方が多いかもしれない。なにしろこの名称は私の発明であり、ご存じなくて当然である。デジタル・コミュニケーションというのは、インターネットやパソコン通信を用いて「会話」を楽しみ、コミュニケーションを深めることで、いわばデジタル信号を媒介とするコミュニケーションだから、私がそう名づけただけである。
 私は現在は「幸齢ネット」というパソコンネットを主宰してこのデジタルな会話を楽しんでいる。「幸齢」とは、ご想像通り「高齢」をもじったものである。
 また「エフ・メロウ」(メロウは「円熟」の意)というパソコン通信フォーラムの中心的なメンバーである。
 どちらも高齢者の集まりであるから、60歳代、70歳代の人が一番多い。そして、決して所謂「出会い系サイト」などではないから話題が知的でセンスが良い。こういう方達の「会話」を読んでいると、高齢者は社会的弱者だとか第一線を引退した世代である、などという話は、どこか遠い外国の話にしか思えない。誠に元気溌剌たるものである。
 謂わば私はこういう高齢者の方々のエネルギーと知識・経験に裏付けられる深みのある会話に魅了されたのであった。

【その魅力とこれからの思い】
 私は、このデジタル・コミュニケーションを通じて、狭い公務員生活の中だけでは体験できない貴重な経験と教訓を得た。特に収穫の大きかったのは新しい趣味を幾つか身につけたことである。その幾つかの中から一つ上げると俳句がある。
 私は「エフ・メロウ」の中で俳句を発表して批評し合う人がいたことから興味を覚え、遂に自分でも俳句を作るようになった。ある句会に参加したときには、日本伝統俳句協会を率いている稲畑汀子さんが選者としてお出でになり、その際に特選3句の1句に選ばれて有頂天になったことがある(もっとも、それ以来あんまり進歩が無いのが口惜しい。) 現在ではネット上で毎月句会が開かれており、この1月で83回を迎える。
 紙数に限りがあるので多くを語ることができないが、このほか「会話」では政治談義、創作なども盛んだし、私の幸齢ネットでは「幸齢美術館」と称して会員の方の絵画や写真、書などを掲げて公開したりしている。また、介護や病気の悩み、パソコン操作方法などが語られている。
 現在、税理士としての仕事の傍ら、ヘビー・ネットワーカーとしての日々の思いは唯一つ。
 こうしたデジタル・コミュニケーションの良さを一人でも多くの高齢者の方に伝えたい、特に、単にパソコン操作の指導に終わらない連帯を深めたい、これに尽きる。
筆者のホームページ  「幸齢ホームページ」

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